飛べない豚は、泥まみれ ~戦車道、始めます!~


飛ばねぇ豚は、ただの豚だ。
ただしこの豚、地べたを這いつくばって、泥まみれになりながら、実に渋くて格好良いのです。

 

 

 

降り注ぐ弾の雨、盾を持って進もう

戦車のはじまりは、第一次世界大戦(1914 年 ~ 1918 年)。塹壕戦の時代です。
新兵器として登場した機関銃と有刺鉄線は、戦場の様子を一変させてしまいました。
防衛陣地を張って待ち構える防衛側が、極端に有利になったのです。

開けた土地に、何重にも張り巡らされた有刺鉄線は、絡みついて兵士の突撃を妨げます。
切ることはたやすいものの、身を晒してる間、奥からは機関銃の掃射。
生身ではとても手に負えません。
それならばと大砲で敵の機関銃陣地に狙いを定めるも、塹壕に引っ込まれると遠方からの砲撃では効果が薄いのでした。

Aerial_view_Loos-Hulluch_trench_system_July_1917

塹壕戦の戦場写真。敵味方で睨み合いつつ、塹壕はひたすら伸びていきます。僅かな距離の奪い合いで、大量の兵士の血が流れていきました。

 

必要なものは、敵の機関銃の弾を受け止める盾。肉薄しての、直接攻撃。
近代戦の兵士がガンダムみたいな全身を守る盾を持ち歩かないのは、手で持てる大きさの小銃を受け止める強度の盾ですら重すぎて持ち運べないからなのですが。
デカい機関銃から撃ちだされる強力な弾の威力は、その何十倍も。

そんなわけで、自動車の出番です。
当時はまだ、ガソリンで動く自動車がようやっと普及しはじめた頃でした。大衆普及車のフォード・T 型がアメリカで発売されたのが、1908 年とかです。

1910Ford-T

フォード・T 型。時代の最先端、最新鋭自動車です。

 

資材運搬のトラクターを出発点として、1916 年、世界で最初の実用戦車、「マーク I 戦車」が完成します。

British_Mark_I_Tank

Mk.I戦車。全長約 10 m、重量約 28 t。主武装:57 mm 砲 × 2。乗員 8 名。
塹壕をまたいで進むために、かなり横長の形状です。

全身を覆う鉄装甲!
強力な砲!
鉄条網や塹壕をものともせず強引に突き進むパワー!

この新兵器は、膠着した戦場の空気を一変…させませんでした。
局地的には役に立ったんですけどね。

とにかく故障が多く、操縦も難しく。数も少なく、対策もすぐ練られたりで、勝敗を決めるほどの役割は果たしてません。
しかし各国、この兵器に将来性を見出しました。

British_Mark_I_male_tank_Somme_25_September_1916

戦場に着くまでに過半数が壊れたり、エンジンの出力不足で時速 6 km しか出せなかったり。
エンジンと乗員が一室に詰め込まれて、高温と振動でとても素敵な車内環境でした。

 

なお、日本語では「戦車」ですが、英語では「tank (タンク)」、ドイツ語では「Panzer (パンツァー)」と呼称されます。
パンツァーは “装甲” の意味ですね。
タンクは、開発情報を敵国ドイツに情報を秘密にするため、コードネーム「WC(Water Carrier:水運搬車)」と呼んでいたのが転じて、「タンク(水入れ)」と呼ばれるようになりました。

「オイ、イギリス人ども、今度は大量の軍事費を投じてトイレの研究してやがるぞ……」
そんな不名誉な風評被害を避けたかったのかもしれません。

Tsar_tank

黎明期の戦車の、試行錯誤の一例。どうでしょうかね、これ? ・・・はい、ご想像の通り、大失敗でした。でもまあ、実際に作って試してみないと分からないことって、ありますよね。

 

 

 

戦車の、カンブリア大爆発

第一次世界大戦後、先進各国は、決戦兵器として戦車の積極的な研究開発に力を入れました。
戦車と言ったらコレ!という標準が定まって無いので、とにかく試行錯誤の連続です。

特にユニークなのが、多砲塔戦車でしょう。
この頃の戦車は、小型で高出力のエンジンや、軽くて丈夫な装甲技術が未発達なこともあり、ノロマな鈍亀でした。
近寄ってきた敵歩兵に囲まれてピッタリ張り付かれると、為す術が有りません。

それならば死角を無くせばいい。
そんな発想で、やたらめったら砲塔を載せまくった、多砲塔戦車というジャンルが産まれます。

IWM-KID-42-Vickers-Independent

多砲塔戦車。「A1E1 インディペンデント重戦車
1925年製造 (試作車のみで終了)。
全長 7.6 m。 重量 33 t。乗員 8 名。主砲のまわりの4つの小砲塔は機関銃。

 

ロマン溢れる多砲塔戦車ですが、残念なことに、高価な割に鈍重で故障が多く、器用貧乏すぎました。
強力な砲一つを搭載したシンプルな戦車のほうが、安くて汎用性に優れているということで、開発競争に敗れてしまったのです。残念。

 

回転砲塔の開発

戦車のスタンダードを決めたのは、フランスが開発したルノー FT-17 軽戦車です。
第一次世界大戦末期にデビューしたこの戦車。
小型で軽い車体に、360 度回る単一砲塔を載せた、シンプルで使い勝手の良い戦車でした。

FT-17-argonne-1918

ルノー FT-17 軽戦車。全長 5 m、重量 6.5 t。時速 20 km。
マーク I と比べると、ずいぶん小型軽量ですね。

 

回転砲塔は、この戦車で初めての採用になります。
ぐるりとどの方向にも向けられる回転砲塔は、攻めるときは前に撃ち、逃げるときには後ろに撃ち。戦車の戦いかたを、大変柔軟なものにしました。

しかし回転砲等の開発・生産は、難易度が高く、高度な科学技術が求められます。
砲塔が軽ければまだ乗員が手で回せばいいんですけどね。より大きい砲を乗っけるようになり、どんどんと大型化して、重たくなっていきますので。

 

 

第二次世界大戦での主役デビュー

各国で色んな種類がたくさん開発されて、各舞台に配備されていった戦車ですが。
陸の戦場の主役は、変わらず歩兵部隊でした。
歩兵の進行を邪魔する機関銃陣地などを、ピンポイントで潰す役割。戦車はサポート役として、各歩兵部隊に散らばって配備されていたのです。

この役割関係を大胆に変えたのが、ドイツ。ドイツ。ドイツドイツ。ジャーマン!
ドイツは、戦車こそを戦場の主役と位置づけたのです。
戦車を一箇所に集め、歩兵や砲兵をそのサポート役として脇に付け、「機甲師団」として編成し直しました。

Ausbildung, Überrollen durch Panzer

ドイツ IV 号戦車。大戦中のドイツで最も多く生産され、ドイツ戦車部隊の中核を担いました。
By  ウィキメディア・コモンズ

 

この機甲師団の威力は絶大でした。
人の歩く速度で進軍する軍隊が、車の速度で進軍する軍隊に様変わり!(歩兵は、歩兵輸送車で運搬)
飛行機による急降下爆撃部隊との連携で、「電撃戦」と呼ばれる破竹の快進撃を実現したのです。

はないちもんめで横に並んで、じわじわ陣地を築きつつ戦う思想のフランス軍。
対して、ドイツの機甲師団は相手の防御陣を一点集中で崩して、神速で敵国深くまで入り込み、敵後方を撹乱しました。
これをやられると、防御側の前線は孤立。近代戦では、弾や燃料を大量に消費しますので、補給を絶たれた防衛部隊は、混乱の渦に巻き込まれ、為す術もなく継戦不能になります。

また、戦闘部隊を誰がどう動かすか。指揮命令の方法にも、大きな違いがありました。
電撃戦では素早い進軍速度に合わせ、現場での臨機応変な対応が必要。そのため、ドイツ軍は前線に直接出ている指揮官に対して、大胆に指揮権限を移譲しました。現場指揮官は、軽飛行機に乗って自ら戦場を上から眺め、自分の判断をもってして無線機で各部隊にリアルタイムで指示を出すことができたのです。

Fieseler_Fi156

偵察機。「Fi 156 シュトルヒ」
軽くてすぐ浮くこの飛行機は、ちょっとした平地があればどこでも離着陸できました。

 

一方フランス軍側。中央集権的な体制で、前線の部隊は何をするにも中央の指示を仰がないといけません。フランス軍はなぜか無線の導入に積極的ではなく、中央と前線との連絡は、有線の電話や、バイクでの伝令頼みでした。伝令を伝書鳩に頼ってたと揶揄されることがよくありますが、実際にはソレすら無かったようです…。

かくして、マジノ線と呼ばれる強大な大要塞と、ドイツと同程度の戦車を保持していたヨーロッパ最強の陸軍大国フランスは、わずか6週間で敗北してしまいました。
フランスはドイツに降伏。併合こそされませんでしたが、ドイツの意のままに動く傀儡政権がフランスの政治を握りました。

800px-Maginot_Line_1944

フランスが国の総力を上げてドイツとの国境に築きあげた「マジノ線
絶対無敵の頼れる防衛要塞でした!
脇を迂回されました・・・。

 

ドイツはその後もイギリスとソ連を相手に快進撃を続けますが、戦線を広げすぎて軍が消耗したところにシベリアの冬将軍に襲われて致命的な被害を被った挙句、途中参戦してきたアメリカの物量の前に押しつぶされて、敗れ去ってしまいました。

なお、機甲師団の概念自体は、別にドイツのオリジナルアイディアというわけでは有りません。各国で研究され、提言されてはいたのです。コレやったら凄いよね、と。
実際に官僚組織である巨大な軍の一大組織改革を断行できたのは、ドイツだけでした。
第一次世界大戦でけちょんけちょんに負けて、軍組織がほぼ解体され、0 からスタートだったのがうまく作用したのかもしれませんね。

 

日本の場合

ヨーロッパでは大規模に繰り広げられた戦車戦でしたが、帝国日本軍では戦車自体があまり作られませんでした。
太平洋戦線ではあまり使う場所もありませんでしたので、アジア大陸での利用が主になります。
そして広大なアジア大陸戦線では、戦車よりも飛行機のほうが活用範囲が広かったのでした。

戦車は重たい鉄のカタマリですので、日本海を越えて中国大陸に輸送するのも大変ですし、港の揚げ降ろしも大変、そこから悪路を進んで奥地まで運ぶのも大変。物が揃わない中での現地でのメンテも大変。
取り回しが良く、メンテも楽で、燃費も良い、軽い歩兵支援戦車の運用がメインとなりました。

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八九式中戦車
全長約 5.7 m。重量約 12 t。時速 25 km。
日本初の国産制式戦車です。

 

帝国陸軍の戦車は、九七式中戦車チハなども合わせ、弱い脆いと馬鹿にされることも多いですが、本来の目的である歩兵支援戦車としては、大いに役立ちました。
大戦末期にぞろぞろ出てきた重戦車には手も足も出ませんでしたが、そりゃ駆逐艦の艦砲で戦艦を沈めろってな無茶ぶりです。

 

長くなりましたので一旦ここまで。次回に続きます。

 

 


泥まみれの虎―宮崎駿の妄想ノート
宮崎駿監督著。ドイツ軍のエース戦車長、オットー・カリウスの戦記を描いたフルカラーコミックス。負け戦で敵の猛攻に晒され、24時間一瞬たりとも気を抜けない過酷な戦場において、現実の戦車兵が、どれほどキツくて、不衛生で、肉体と精神の極限に立たされて。そんな中で、どれほど冷静で、理性的に職務を遂行したかが、ねっちりとみっちりと描かれてます。紅の豚はあんなにオシャレでスマートだったのに、どうしてこっちはひたすら泥臭いんでしょうね。いいじゃないですか、飛べない豚。素晴らしい。

 

 


ガールズ&パンツァー これが本当のアンツィオ戦です! [Blu-ray]
TV アニメシリーズ ガールズ&パンツァー。全12話の作品は、シナリオ詰め込み過ぎという制作上の都合により、途中のエピソードが一部ダイジェストですっ飛ばされてしまいました。アニメは良い出来でめでたく人気が出ましたので、すっとばしたエピソードを改めて 40 分の OVA で補完した次第です。ノリと勢いで描かれた軽快なテンポの戦車戦は、スピード感満点で大変心地良いのです。いいぞもっとやれ。2014 年中には、完全新作劇場版が公開予定! あくまでも予定! たぶん遅れるのでのんびり待ちましょう!

 

 


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